AIが奪う仕事、AIで広がる仕事

AIスキルが事務職の価値を変える時代に

6月21日付の日本経済新聞朝刊1面に、「AIスキル、転職の神器」「賃金、事務で3割上乗せ」という大見出しの記事が掲載されました。

記事によると、AI関連スキルを持つ人材への需要は急増しており、事務職では賃金が3割上乗せされるケースも出ているそうです。AI人材への求人はこの6年間で約8倍に増加し、今や営業職や企画職だけでなく、一般事務職にも大きな影響を与え始めています。

このニュースを見て、「AIは一部の大手企業だけの話」と感じた方もいるかもしれません。しかし、私はむしろ中小企業や卸売業こそAI活用の恩恵を受けやすいと考えています。

卸売業にはAIで自動化できる業務が数多く存在する

中小企業や卸売業では、メーカーからPDFで送られてきた見積書の内容を、自社のExcel見積書へ転記する作業が日常的に行われています。また、お客様からFAXやメールで届いた注文書の型番や数量をメーカーの発注システムへ入力する作業も多くあります。

こうした仕事は、一見すると付加価値のある業務に見えますが、実際には「情報の転記」が中心です。OCR機能やAIエージェントを活用すれば、これらの作業の多くは自動化できます。

実際に生成AIを活用すると、
・PDF見積書やFAX注文書から商品名、型番、数量などを抽出する
・メール本文から受注内容を整理する
・見積書の下書きを作成する
といった作業は驚くほど短時間で実行できます。

AIによって余った時間を営業力強化へ

多くの企業では、営業担当者が外回りをし、業務担当者は内勤として受発注や出荷手配を担当しています。営業にかかわる業務は、次の3つに大別できます。
①営業活動(目標・計画作成、顧客訪問、課題聴取、提案、クロージングなど)
②営業支援業務(見積、問い合わせ対応、受注·売上管理、与信管理など)
③受発注管理業務(受注·出荷·請求、発注·仕入·在庫管理など)

多くの企業で、営業担当者が①営業活動と②営業支援業務を担い、業務担当者が③受発注管理業務を担当しています。外回りから帰社した営業担当者は、お客様への電話対応や見積作成を行いますが、これが大きな負担になっています。

AIによる受発注管理業務の自動化によって余った、業務担当者の時間をどう使いましょうか。多忙な営業担当者が担っている②営業支援業務を業務担当者に移管できれば、営業担当者の顧客訪問や提案業務を増やすことで、営業力強化につながります。

業務担当者を営業人財へ育成する

業務担当者は日頃から商品や仕入先に接しており、②営業支援業務を新たに担うだけの知識やスキルをある程度持っています。

素養があるので、業務担当者はリスキリング(学び直し)をして、営業周辺業務を担っていただきます。ここで必要なのは、商品知識、見積作成のような営業支援業務スキル、そしてお客様との人間関係づくりです。

この時に大切なのは教育方法です。営業経験が豊富なベテラン営業員が教えるよりも、見積作成を既に手掛けている先輩格の女性社員が教える方が効果的です。

「私にもできたのだから、あなたにもできる」
という成功体験を共有できますし、業務担当者の得意・不得意をよく理解しているからです。

業務担当者にも名刺を持たせよう

お客様との人間関係づくりのために効果的なのが、営業員が業務担当者を連れて顧客を訪問するのです。今までは電話やメールでのやりとりだったのが、お互いの顔を知って世間話をすれば、ぐっと親密になり、深いレベルで業務のやり取りができます。

さらに私がぜひ経営者に提案したいのは、業務担当者にも名刺を持たせることです。名刺交換をしても、自分だけ名刺を渡せない。これは想像以上に寂しいものです。会社から正式に認められた存在であるという実感も得られません。

名刺を持てば「私は会社の代表としてお客様と接している」という誇りが生まれます。また、仕事を離れた同窓会などでも自社を紹介できて、会社に対する愛着(ロイヤルティ)が高まるのです。

社員は誰もが名刺をもち、自分を相手に説明できること。私はこれも「人を大切にする経営」の一つだと思います。

AI時代の営業力強化とは

AIは人間の仕事を奪うために使うのではありません。人間を単純作業から解放し、より価値の高い仕事に挑戦してもらうために使うものです。転記作業に追われていた業務担当者が、お客様と直接対話し、提案し、感謝される存在になる。

AIによる業務効率化の目的は、人を減らすことではありません。人を成長させることです。そんな成長の機会をつくることこそ、AI時代の営業力強化であり、人を大切にする経営ではないでしょうか。

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