コロナ禍の対面営業における新規顧客開拓の成功事例

コロナ禍の対面営業で新規開拓訪問件数79%増、新規獲得社数35%増

新規顧客開拓に取り組んだところ、メールで面会を打診したら回答がもらえず、企業訪問しても受付で断られる。そのようなお悩みをもつ企業が多いことと思います。

弊社が石油製品卸売業のS社と一緒に新規顧客開拓に取り組んだところ、わずか1年半で新規開拓訪問件数は前期比79%増、その結果として新規獲得した会社数が前期比35%増を実現しました。これが「日本一の経営革新事例」として、令和3年度中小企業経営診断シンポジウム(主催:中小企業診断協会)において、中小企業庁長官賞(最優秀賞)を受賞しました。

読者の皆様には、ぜひ新規顧客開拓に取り組んで、そして成功していただきたいので、そのノウハウをつつみ隠さずご紹介します。長文になりますが、最後までお読みください。

S社には2020年2月に初めてお会いしました。ダイヤモンドプリンセス号が横浜港に停泊していた頃です。その頃から始まった「コロナ禍」において「対面営業」で「新規顧客開拓」を増やすという、難易度が高い営業革新活動に取り組みました。1年半の間にさまざまな取り組みを行ったのですが、次のような流れで進めていきました。

営業革新活動の流れ

活動を進める順序に工夫があります。新規顧客開拓が上から3段目にあることに注目してください。新規顧客開拓にいきなり着手しないことがポイントです。お医者さんが血液検査やレントゲン検査の結果を見てから治療方針を決めるように、企業もまず営業力や営業の課題を可視化するところから始めます。

ステップ1 営業力診断アンケートで営業力を可視化

生産活動は自社の工場で行われるので、経営者自ら出向いて工場のラインや生産データを見たり、社員に訊ねたりすることで、現状を把握できます。一方、法人営業の活動はお客様先で行われます。営業員任せになりがちなので、経営者には営業の状況や問題点がなかなか見えづらいものです。

そこで弊社では、営業部の管理者と担当者がweb上で約20分かけて回答することで、営業力や営業課題を可視化できる「営業力診断アンケート」を独自開発しています。S社では、法人営業を行うガス部と石油部に受診していただきました。その診断結果を下図に示します。

営業力診断結果.レーダーチャート部分

営業力診断は、戦略力、計画力など5つの軸で評価します。ガス部(左側)のレーダーチャートを見ると、5つともスコアが高く、きれいな五角形です。管理者(青線)と担当者(赤線)の差がほとんどなく、双方の認識に隔たりが少ないことがわかります。一方、石油部(右側)は管理者と担当者の差異が大きく、特に計画力において管理者のスコアが低いことが一目瞭然です。

2020年5月に、S社の営業幹部に対して診断結果報告会を行いました。営業の課題を整理して改善提案を行ったところ、弊社と一緒に石油部の営業力強化に取り組むことになりました。

ステップ2 業務改善活動による営業業務の時間短縮(短期効果)

法人営業では新規訪問から情報提供、見積提出を経て受注に至るまで、長い営業プロセスをたどります。そのプロセスを1つずつ強化していくと、売上UPが顕在化するまでに時間がかかります。経営者は皆さんせっかちなので(笑)、長くは待っていただけません。

そこで、忙しい営業員の時間創出につながり、短期間で成果を出せる営業業務改善に先行して着手しました。まず、工場現場の実際の業務改善事例をストーリー仕立てで紹介する講義を行い、ムダとはどういうものか、どういう手順で業務改善をしていくのか、社員の皆様に理解していただきました。

卸売業者に工場現場の事例が参考になるのか?と疑問に思われるでしょう。S社以外に何社もの卸売業者に講義しましたが、どの会社もすぐに肚落ちしました。逆に、違う業種の方が理解しやすいのかもしれません。

業務改善手法の抜粋

最終ゴールである「新規顧客開拓」に関係が薄そうな営業業務改善をなぜ最初に手掛けるのでしょうか。それは、関係者全員がハッピーになるテーマだからです。短期間(半年前後)で結果を出せますし、どの会社もどの人も時間が足らない現代において、時間を創出できれば誰もが喜び、新しいことに取り組む余裕ができます。

S社では手形や現金を集金する集金訪問の削減をテーマにしました。15日、20日、25日などお客様によって集金日が違いますが、決められた日に他の用事がなくてもお客様のところに出向いて集金しなければならず、営業活動の支障になっていました。

下図の通り現状分析をするところからスタートしました。この現状分析の資料は弊社が作成しましたが、活動に慣れるにつれてS社の営業員自らがデータ取りや改善方法のアイデアを考え出すなど、社員がどんどんレベルアップしていきます。

やがて集金訪問削減のテーマ以外にも複数の業務改善に並行して取り組み始めました。7ヵ月間の活動で、営業員一人が1ヵ月あたり3.3日間の時間を短縮できました。なんと3.3日です! 3日もあれば、新たにいろいろな活動に取り組むことができます。

営業業務改善の現状把握

ステップ3 継続的に情報提供する仕組みづくり

S社では石油製品の市況や見通しを情報提供することが大切な営業活動になっています。お客様はできるだけ価格が安い時に仕入れたいですから、価格の推移を判断するための情報を欲しがります。集金訪問を減らすことで情報提供が減って、顧客との関係性が弱まっては元も子もありません。そこで、継続的に情報提供をする「仕組み」として、2020年9月から「マーケットニュース」を月2回発行し始めました。

表・裏面でそれぞれ石油・LPガスの価格推移グラフや見通しを説明して、下部にS社のお薦め商品の広告を掲載したもので、立派な営業ツール(訪問ネタ)になりました。S社に限らず多くの企業の営業員は、お客様訪問時の訪問ネタに苦労していますので、会社として訪問ネタを充実させる「仕組みづくり」が重要です。

マーケットニュースによる継続的な情報提供

配り始めて半年するとお客様から「継続的に情報提供してもらえて助かります」とお褒めの言葉がかかるようになりました。やがて1年経つと、マーケットニュースに掲載された電気の広告を見たお客様から電気の契約を受注できました。営業の成果が出れば、営業員は進んで配るようになります。このようにして、月2回発行が定着しました。

ステップ4 SFA導入により情報共有化

もうそろそろ、新規顧客開拓に取り組みたい気持ちが出るでしょうが、まだ早い! 新規顧客のターゲットリストのどこまでを訪問できたのか、最初は受付で撃退されていたのがいつから社長に会えるようになったのか、そしてどれだけ受注できたのか、そのような商談情報を「見える化」できる仕組みが必要です。商談記録を読むことで、管理者が営業員に対してアドバイスができて、時には弱気になりそうな営業員を励ませます。

またS社では、営業員が定年退職する時に顧客や商談の情報が後進に引き継がれない問題が発生していました。そこで社長は、各所に散在する顧客情報を一元管理できることを切望していました。そして営業本部長は、時には2年以上続く商談の経緯を覚えきれないので(部下が10人以上いるとまず記憶できません)、商談履歴を参照できる機能を望んでいました。

そこで、S社の細かな要望に対して仕様変更がしやすく、開発・維持コストを下げられることから、サイボウズ社のkintone上で営業支援システムSFAを構築して導入しました。下図のように、顧客管理、案件管理、活動管理、そして名刺管理の機能を織り込みました。

kintoneSFAの4機能

ステップ5 創出した時間で新規顧客開拓

ここまで準備を重ねた上で、いよいよ本丸の新規顧客開拓に本格的に取り掛かりました。S社のどの部門も取引がない96社を開拓する「アタック96リスト」のほか、石油部のお客様にLPガスを提案する「石油部・ガス部協業リスト」、新商材の電気を提案する「電気ターゲットリスト」など、複数の新規開拓ターゲットリストを用意しました。

新規開拓活動で用いた複数のターゲットリスト

上図のように、コロナが落ち着いている時期には全くの新規客であるアタック96活動に注力し、コロナが深刻になって新規客と会いづらい時期には、既存客で構成される電気ターゲットリスト先を訪問したりなど、コロナの状況に応じて柔軟に取り組み方を変えました。

S社の営業活動を分析して、未訪問から初回訪問、情報収集、見積提示、受注に至る、S社独自の商談ステップ(営業プロセス)を決めました。担当者が商談結果を入力すれば、SFAが新規顧客開拓活動の進み具合を、下図のように自動でグラフ化してくれます。このグラフがSFAの目立つ場所に掲示されているので、営業員が「よしもう1件!」とやる気を出します。

新規顧客開拓活動の状況を見える化した進捗グラフ

これら一連の活動によって、2021年3月期は新規訪問件数を前期比79%増やし、新規顧客を前期比で4社多い15社獲得できました(下図参照)。コロナの影響をほとんど受けてない2020年3月期と比べて、コロナ禍で新規訪問が制限される2021年3月期は数字が下がって当然なところですが、目覚ましい成果をあげました。

新規顧客開拓活動の成果

新規顧客開拓は難しい活動ですが、業種や取扱商品によって最適な取り組み方があります。本事例のように「営業力診断アンケートで営業力を可視化」「業務改善活動による営業業務の時間短縮」「SFA導入により情報共有化」「ターゲットリストに基づいた新規顧客開拓」を、正しいやり方で正しい順序で行えば、必ず結果を出せます。これをお読みの皆様にも、ぜひ新規顧客開拓の成功体験を味わっていただきたいと思います。

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講演動画

中小企業庁長官賞を受賞した講演の動画(28分43秒)です。
24枚のスライドをお見せしながら事例報告していますので、わかりやすく仕上がっています。ぜひご覧ください。

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