徳武産業に学ぶ「手間がかかる市場での競争優位」

徳武産業株式会社は、香川県に本社を置く高齢者用ケアシューズの専門メーカーです。主力ブランド「あゆみシューズ」は、転倒しにくく履きやすい靴として、全国の介護施設などで支持されています。

業界でいち早く「左右サイズ違い販売」や「片方販売」に取り組み、他社が対応しにくい個別ニーズに寄り添うことで、高齢者用ケアシューズ市場でトップシェアを築きました。そのような同社の強みを、法人営業の視点からひも解いていきたいと思います。

ケアシューズの商流と情報流

ケアシューズの商流(商品の所有権が移転する売買の取引)は、下図の実線で示す通り、製造したメーカーから、介護用品販売店を介してユーザーへ届けられます。商流とは別に、情報流(メーカーとユーザーの間などでやり取りされるデータや情報の流れ)がカギを握る市場です。

商品には、メーカー社員が真心をこめて書いた「手書きの温かいお礼状」とアンケートはがきが同梱されています。お礼状に感謝するユーザーから、利用者ニーズや困りごとが書かれたアンケートはがきがメーカーに届けられます。この情報流を通して、ユーザーはファンになり、メーカーは利用者ニーズを獲得して次の商品開発に生かします。

もう1つ、別の情報流として、ユーザーが利用する介護施設は、ユーザーに対してアドバイスや推薦をします。ケアシューズ市場は、情報流が大切な役割を担う、法人営業と個人営業が組み合わされた、BtoBtoCの市場と言えます。

「手間がかかる依頼に対応してくれる」会社を選ぶ

人の足は、左右がまったく同じではありません。顔を鏡で見ても、左右の目の高さや輪郭が少し違うように、足も右足と左足でサイズや形状が異なることは珍しくありません。特に高齢者や病気・むくみのある方では、その差が大きくなり、「右は23cm、左は24cm」といったケースも少なくないのです。

いまでこそ、多くのケアシューズメーカーが左右サイズ違い対応を行っていますが、徳武産業が取り組み始めた1995年頃には「そんな面倒なことをやれば在庫が残り、会社が潰れる」とまで言われたそうです。しかし徳武産業は、「困っている人を助けてあげたい」という強い想いから、この難しい挑戦を続けました。今では、左右サイズ違いや片方販売などの「特別対応」が全体の約4分の1を占めるそうです(出典:福祉新聞2025年11月3日号)。

メーカーとユーザーの間に立つ介護施設の立場を考えてみましょう。例えば利用者が20名いる施設であれば、特別対応が4分の1を占めるとすれば、5名もおられるのです。左右のサイズ違いや足の変形、むくみなど、既製品では対応しにくい利用者が一定数存在します。そうした利用者の特殊なケースまで含めて安心して任せられるメーカーであれば、仮に多少の価格差があっても、介護施設や販売店が徳武産業を選ぶのは自然な流れでしょう。

大企業が参入しづらい市場にこそ商機あり

中小企業は、経営資源(リソース)に勝る大企業と真正面から戦っても、勝ちにくいのが現実です。大量販売・標準品販売・価格競争の市場では、資本力や効率性に優れた大企業が圧倒的に有利です。だからこそ、中小企業は大企業がやりたがらない「手間がかかる市場」を選ぶべきです。
大企業がやりたがらない市場とは:
1. 多品種少量
2. 個別対応が必要
3. 現場判断が必要

徳武産業は、「左右サイズ違い」「片方販売」「パーツオーダー」という、大企業が効率面から避けたくなる「手間がかかる市場」に踏み込みました。そして、その「手間がかかる」市場対応を仕組み化することで、市場そのものを創り上げたのです。

手間がかかる市場では社員の創造性が大切

徳武産業の強さの根底には、「人を大切にする経営」があります。同社は、社員やその家族をとてもとても大切にしておられます。一例をあげると、社員の7割が女性で、利用者の立場に立った育児休業制度や有給休暇制度によって、産休育休後の社員の職場復帰がほぼ100%だそうです。

左右サイズ違い販売や片方販売、パーツオーダーなどは、現場から見れば非常に手間がかかる仕事です。しかし、社員自身が「会社から大切にされている」と感じているからこそ、顧客に対して同じことをしようと心がけ、面倒な要望にも前向きに向き合えるのではないでしょうか。

手間がかかる市場では、最後は「人」が差別化要因になります。社員が嫌々対応している会社では、こうした細やかなサービスは続きません。だからこそ「人を大切にする経営」が、結果として企業としての競争力につながっていくのでしょう。

手間がかかる市場を仕組み化によって効率化する

下表のように、受注形態には標準品、オプション・カスタマイズ、特注の3種類があります。数百万円以上する高価な産業機械では、一般的な考え方です。

下に行くほど手間と経費が掛かります。手間がかかることを現場に任せていたら、いずれ現場が疲弊します。そこで同社は、次のような負荷軽減策に取り組むことで、最初は特注に近かった手間を、標準品に近い手間に軽減したものと推測します。
・物流センターをつくり、効率的な出荷方法を構築する
・物流センターの運営を専門業者に業務移管する
・ケアシューズ特注システム「パーツオーダーシステム」により受注処理の負荷を軽減する

産業機械は高額なので、特注のための経費の割合が少なくて済みます。ケアシューズの場合は「サイズ違いをもう1足買った方が安上がり」になるのですが、高齢者は「余分な出費を抑えたい」「無駄になる買い物をしたくない」気質が強くて、受け入れてもらえません。

同社は、自社の利益を削って高齢者が買える価格で販売するところがすばらしい。その経営判断は「困っている人を助けてあげたい」という強い想いによるものでしょうが、「特注だけでなく標準品まで含めた全体で考えれば損はしない」「やがて市場が拡大すれば費用を吸収できる」という見立てがあったのかもしれません。

自社にどう生かしていくか

これを読んでおられる読者の会社にも、「手間がかかる市場」があると思います。そこにどう向き合っておられるでしょうか。自社の競争力を高めて顧客に選んでいただくために、どうすべきでしょうか。

徳武産業株式会社の十河孝男会長の講演をお聴きし、「中小企業はどこで戦うべきか」を改めて考えさせられました。なお講演では、ビジネスモデルの詳細を包み隠さず語っていただきましたが、同社のビジネスモデルにかかわる情報なので、本ブログではすでにインターネット上に公開された情報のみ使用しております。

最後に、筆者のプライベートなことですが、次に実家に帰省する際、高齢の母が履いているケアシューズが歩きやすそうか、じっくり観察します。歩きにくそうならば、母と一緒に「あゆみシューズ」を選びたいと思います。

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