顧客の視点で考えると提案の説得力が高まる
顧客の視点から情勢を理解できていれば、顧客に提案した際の説得力が異なります。とは言っても、つい売り手にとって都合よく考えてしまうものです。そこで、顧客の視点での考え方をご紹介します。
6月14日の当コラムでとりあげた、寸法精度が高くて耐久性のあるプラスチック成型品が得意な成型工場(プラスチック部品メーカー)を例に説明します。下図の左側でいうと部品業界の枠にある「当社A」にあたります。A社は、ライバル企業の競合B社や競合C社と競り合いながら、完成品業界の電化製品メーカーの「客先P社」に納品しています。
ここで電化製品メーカーP社の視点で考えてみましょう。右側の図をご覧ください。「当社P社」からみると、部品業界のA社、B社、C社が仕入先になり、電化製品メーカーの競合O社、競合Q社がライバル企業になります。そしてユーザー業界、例えばヘアサロンチェーン店「客先X社」やエステサロン大手「客先Y社」が顧客になります。顧客から値下げ圧力を強く受けていたので、仕入先のA社に対してもプライスダウン要求を繰り返しており、高付加価値品を得意とするA社は対応に苦慮していたのです。
A社にとって「顧客の顧客」であるユーザー業界(理容業、エステサロン業)の置かれた状況を考えることが大切です。新型コロナウイルスが広がったいま、顧客ニーズが大きく変化しました。コロナ感染対策を厳重に講じて営業することが絶対条件となり、人が触るものには抗菌性が強く求められるようになったのです。そこでA社は、人が触るプラスチック部品に対してもいずれ抗菌性が求められるだろうと仮説を立てて、抗菌性を強めたプラスチック成型品をいち早く開発することにしました。P社の視点で考えると、ライバルメーカーのO社やQ社よりも先に、抗菌仕様のヘアドライヤーを発売できれば有利に立てます。そんなP社に対してヘアドライヤーのハウジング(ケース)や把手部分に抗菌性プラスチック部品を提案すれば、少々割高であっても歓迎されることは間違いありません。
このように「顧客の顧客」のニーズを考えることは、顧客の視点で考えることになります。低価格競争で苦労していたA社は、抗菌仕様を取り込むことで、顧客に対する提案力を高めることができるのです。