顧客の視点で考える
顧客の視点で市場ニーズを理解できていれば、顧客に提案した際の説得力が一気に強まります。とは言っても、つい売り手にとって都合よく考えてしまうものです。そこで、顧客の視点での思考法をご紹介します。
ヘアドライヤーの外側をおおうハウジングをつくるプラスチック成型品メーカーを例に説明します。左側の図でいうと部品業界の枠にある「当社A」にあたります。A社は、プラスチック成型のライバル企業の競合B社や競合C社と競り合いながら、家電製品(ヘアドライヤー)メーカーの「客先P社」に納品しています。ヘアドライヤーは技術的に複雑でない成熟商品なので、どうしても価格競争になりがちです。プラスチック成型品に対しても価格競争が持ち込まれます。では、価格競争から脱するには、どうすればよいでしょうか。
そこで、顧客である家電製品メーカーP社の視点で考えてみましょう。右側の図をご覧ください。「当社P社」からみると、部品業界のA社、B社、C社が仕入先になり、家電製品メーカーの競合O社、競合Q社がライバル企業になります。そしてユーザー業界、例えばヘアサロンチェーン店「客先X社」が顧客になります。今まで顧客から値下げ圧力を強く受けていたので、仕入先のA社に対してもプラスチック成型部品のプライスダウン要求を繰り返しており、高付加価値品を得意とするA社は対応に苦慮していました。
A社にとって「顧客の顧客」であるユーザー業界(ヘアサロン業界)の置かれた状況を考えることが大切です。新型コロナウイルス感染症が広がったいま、顧客ニーズが大きく変化しました。コロナ感染対策として、人が触るものには抗菌性が強く求められるようになったのです。そこでA社は、人が触るプラスチック部品に対して抗菌性が求められるだろうと仮説を立てて、抗菌性を強めたプラスチック成型品をいち早く開発することにしました。家電製品メーカーP社の視点で考えると、ライバルメーカーのO社やQ社よりも先に、抗菌仕様のヘアドライヤーを発売できれば有利に立てます。そんなP社に対して抗菌性プラスチック部品を提案すれば、少々割高であっても歓迎されることは間違いありません。
このように「顧客の顧客」のニーズを考えることは、顧客の視点で考えることになります。価格の競争で苦労していたA社は、抗菌仕様という開発力の競争に持ち込むことができ、顧客に対する提案力を高めることができるのです。